禺画像]
紀伊国屋サザンシアターで青年劇場公演『失敗の研究―ノモンハン1939』(作:古川健康、演出:鵜山仁、出演:岡本有紀、矢野貴大、他)を観た。この劇団の芝居を観るのは
『豚と真珠湾―幻の八重山共和国』[LINK]以来2年ぶりだ。出版社の編集部が主な舞台の真面目なストレートプレイである。このテの芝居を観ると胸のあたりがこそばゆくなる。だが、退屈することなく面白く観劇した。
時代は1970年。出版社の経理部から編集部に抜擢された女性編集者・沢田利枝が、1936年の「ノモンハン事件」を取材する話である。ノモンハンの企画は大物小説家・馬場貫太郎の発案によるもので、利枝はその取材を手伝う。だが、馬場は取材途中で執筆を断念する。それでも利枝は取材を続けるのだが……という展開である。プロローグとエピローグに、ノンフィクション作家になった現在(2024年)の利枝が登場する。
――そんな粗筋からは、中央公論社の経理部から編集部に異動になり、その後ノンフィクション作家に転身した
澤地久枝[LINK]や、ノモンハン小説を構想しながらも断念した司馬遼太郎を連想せざるを得ない。しかし、内幕モノの伝記芝居ではない。作者は、実在の人物をヒントに、ノモンハンを材料にして「どのようにして戦争が起きたのか」「どうしたら戦争を終わらせることができるのか」を追究している。戦争に関するメッセージ性の高い芝居である。
1970年を舞台にしたこの芝居には、当時の内外のフォークソングが流れる。団塊世代の私にとっては懐かしい曲ばかりだ。編集者たちの会話も当時の世相を反映している。だが、そんなフォークソングや会話に、あの頃の若者だった私はかすかな違和感を抱いた。安易な類型で処理されているように感じる。時代を深く適格に表現するのは容易でないとは思うが。
ノモンハン事件について、私は3年前に読んだ
『ノモンハンの夏』[LINK](半藤一利)で知っているだけだ。その記憶も薄れかけている。この芝居は「ノモンハン事件」の概説でもあり、この悲惨な「戦争」をあらためて想起できた。あの「戦争」の「失敗の研究」が成されていれば、真珠湾を避けられただろうか。まったくわからない。
「20世紀は戦争の世紀」と言われる。「21世紀も戦争の世紀になるのだろうか」というこの芝居のメッセージには慄然とした。
セコメントをする