『大聖堂』全3冊に続けて続編全3冊も読むはめになったワケ
2016-02-29


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購入ミスは私の責任だが、翻訳版のタイトルにも問題がある。『大聖堂』の原題は『The Pillars of the Erth』で、『大聖堂 ― 果てしなき世界』の原題は『World without End』である。後者が前者の続編なのは確かだが、原題のタイトルはまったく異なっている。

 本編に『大聖堂』という日本語タイトルを付けるのは悪くはないが、続編の『大聖堂 ― 果てしなき世界』が問題だ。サブタイトルだけで区別するのでは紛らわしい。せめて『続・大聖堂 ― 果てしなき世界』か『果てしなき世界 ― 続・大聖堂』とでもしてくれれば、私のような間違いは防げるだろう。

 ただし、続編はそれ自体で独立した物語で、本編を読んでいなくても十分に楽しめるので、営業的には『続・大聖堂』は好ましくないかもしれない。そもそも「大聖堂」というタイトルは続編の内容を反映しているとは言い難いのだ。

◎続編より本編の方が面白い

 そんなわけで『大聖堂(上)(中)(下)』(ケン・フォレット/矢野浩三郎訳/ソフトバンク文庫)、『大聖堂 ― 果てしなき世界(上)(中)(下)』(ケン・フォレット/戸田裕之訳/ソフトバンク文庫)を続けて読んで寝不足になった。長大な小説をノンストップのアクション映画を観るような気分で一気読みしたのでフラフラである。もう60代後半なのだから、睡眠時間を削るような読書時間を排除し、ゆったりとした読書時間を過ごすべきだと思う。

 『大聖堂』の舞台はイギリス中世、1123年から1174年までの約50年間の物語である。大聖堂建築を基調に波乱万丈のさまざまな出来事が展開していく。その過程でばらまかれたあれこれの伏線が最終的に収拾されていくのも心地よい。

 『大聖堂 ― 果てしなき世界』の地理的舞台は『大聖堂』と同じで、時代は1327年から1361年までの34年間、『大聖堂』の約200年後で英仏百年戦争の時代の物語だ。主な登場人物は『大聖堂』の登場人物の末裔たちで、基調は大聖堂建築ではなく黒死病(ペスト)である。少年少女たちが中年になるまでの群衆劇の趣きもあり、波乱万丈的な物語の面白さは本編に劣る。だが、続編の方が中世の社会の猥雑さが迫真的になっている。

 本編、続編に共通している面白さは、修道院という世界の精神性と俗物性、職人たちの技術(建築・医学)、商人たちの経済などが絡み合う世界を巧みに描き出している点にある。

◎フィクションと歴史の実相

 本書を読むまでこの小説の舞台となったイギリスの中世には不案内だった。そもそもヨーロッパの中世にあまり関心がなかった。だが、この物語世界に引きずりこまれ、主人公たちの人生を疑似体験することで、中世の社会のあれやこれやに触れた気分になり、この時代への興味がわいてきた。この壮大なフィクションに描かれた猥雑な世界が歴史の実相をどの程度まで反映しているのか知りたくなる。と言っても、歴史の本を読んで容易に確認できることではない。不可知なことだとはわかっているが――

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