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◎山田方谷関連本の著者の多くは縁者たち
山田方谷ゆかりの地を歩く[LINK]のを機に方谷関連の以下の5冊を続けて読んだ。
(1)『山田方谷:河井継之助が学んだ藩政改革の師』(童門冬二/人物文庫/学陽書房)
(2)『炎の陽明学:山田方谷伝』(矢吹邦彦/明徳出版社)
(3)『備中聖人山田方谷』(朝森要/山陽新聞社)
(4)『山田方谷』(山田琢/明徳出版社)
(5)『山田方谷の夢』(野島透/明徳出版社)
山田方谷関連の本の著者の多くは方谷や縁者の末裔や郷土史家で、その大半が明徳出版社という朱子学や陽明学が専門の出版社から出ている。
(4)の著者・山田琢氏(1910〜2000年)は方谷の曾孫にあたる大学教授、(5)の著者・野島透氏(1961〜)は方谷6代目直系子孫の財務省官僚、(2)の著者・矢吹邦彦氏は山田方谷と深い関わりがあった庄屋・矢吹久次郎4代目子孫の大学教授だ。(3)の著者・朝森要氏は岡山県の高校教諭を務めた研究家だ。この4人の著者たちは上記以外にも方谷関連の本を書いている。
山田方谷関連の資料リストを眺めてみると、最も基本になるのは『山田方谷全集』(山田準編/明徳出版社)と『山田方谷の詩--その全訳』(宮原信/明徳出版社)という大部な本のようだ。全集の編者・山田準氏(山田済斎 1867〜1952)は方谷の孫娘の婿養子にあたる学者で、全訳の著者・宮原信氏は元・高校教諭の地元の研究者である。
このように方谷関連の書籍の大半が縁者たちによって書かれているということは、山田方谷はローカルな偉人であって全国区的な存在ではないということだろうか。
◎5冊の読み比べ
5冊の中で一番面白かったのは(2)『炎の陽明学:山田方谷伝』だ。「炎の陽明学」というタイトルから連想されるような過激さはあまりない。洒脱で読みやすい語り口には歴史小説的な魅力がある。歴史背景の記述から方谷の私生活への考察まで目配りのバランスもいい。
縁者による本が多い中で(1)『山田方谷:河井継之助が学んだ藩政改革の師』は歴史作家・童門冬二氏による読みやすい本だ。歴史小説というよりは、山田方谷早わかり解説書で、(3)と(4)をベースに書かれている。
童門冬二氏が参考にした(3)『備中聖人山田方谷』、(4)『山田方谷』は方谷を知るための基本図書という趣がある。
曾孫の学者が書いた(4)の伝記部分は簡略で、方谷が残した文章の解説がメインだ。方谷の文章はなかなか味わい深い。と言っても、方谷は漢字だけの漢語で書いているので私にはほとんど読めない。読み下しの現代語訳で理解するだけだ。ほんの百数十年前の人が書いた文章が読めないのは、われながら情けない。
方谷ゆかりの地を巡る旅行[LINK]に持参したのは(3)だ。随所に史料を引用した丁寧な伝記で、ゆかりの写真も多く掲載されている。巻末の年譜や地図もありがたい。
方谷6代目子孫の財務省官僚の手になる(5)『山田方谷の夢』には少し驚いた。ご先祖の事跡を調べて書いた伝記と思って読んだが、かなり想像力を駆使したと推測される小説仕立てになっている。他の方谷関連の本には登場しない新選組の谷三兄弟が副主人公的役割で登場するのにもびっくりした。藩政改革に関する箇所では現役財務官僚らしい考察もあり興味深い。
これらの5冊読み比べると、著者ごとの見解に多少の食い違いもあるが、山田方谷という人物の姿がおのずと浮かびあがってくる。
◎幕末維新を疑似体験
私が山田方谷に関心をもったのは、郷土の偉人について知りたいという動機もあるが、幕末維新という歴史変動の時代にアプローチしたいと考えたからだ。一人の人物に沿って時代の動きを眺めるのは歴史の疑似体験になる。山田方谷に関する本を何冊か読み、この人の生涯をたどりながら、その時々の世の眺めを推測するのは、幕末維新の疑似体験に有効だった。
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