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かなり以前に入手し、読もう読もうと思いながら先延ばしにしていた次の本を、やっと読んだ。
『ゾロアスター教』(青木健/講談社選書メチエ)
青木健氏の著書を読むのは
『マニ教』[LINK](講談社選書メチエ)、
『ペルシア帝国』[LINK](講談社現代新書)に続いて3冊目である。本書の刊行は私が読んだ2冊より前だ(初版2008年3月。本書は2019年4月10刷)。真面目な記述の合間に時おり挿入される青木氏独特のユーモラスなツッコミ述懐の魅力は、すでに本書でも発揮されている。
ゾロアスター教に関しては、以前に
『宗祖ゾロアスター』[LINK](前田耕作)と
『マニ教とゾロアスター教』[LINK](山本由美子)を読んだことがある。だが、この宗教のイメージをつかめてはいない。本書を読み終えて、ゾロアスター教の姿はますます茫漠としてきた。ゾロアスタ―教の始まりは不明確で、そこにさまざまなものが付加され、後世では誤解に基づく虚像も拡大した。そんな姿を描こうとすれば茫漠とならざるを得ない。
ゾロアスター教は古代アーリア人(インド・ヨーロッパ語族)の民族宗教から生まれた。古代アーリア人の原郷は中央アジア(カスピ海の東方、アムダリア川の北方)である。彼らはBC3000年頃から東西に移動を開始し、イラン高原やインドに向かう東方系とヨーロッパに向かう西方系に分かれた。イラン高原に進出した人々は「アーリア人」を自称し、そこでゾロアスター教が生まれたようだ。
「ゾロアスター」は古代イラン語の「ザラスシュトラ」の英語読みである。ドイツ語だと「ツァラトゥストラ」になる。本書の本文は主にザラスシュトラを使っている。
ザラスシュトラの生存年代は不明である。BC12世紀からBC9世紀頃、中央アジアからイラン高原東部で牧畜生活を送っていた古代アーリア人の神官の家に生まれた「知的エリート」だったそうだ。
ザラスシュトラは当時の民族宗教に反旗を翻し、アフラー・マズダー(叡智の主)という神格を創案し、従来の神々を二元論的に再編成する。ザラスシュトラの死後も教団は発展していくが、その過程で古代多神教の神々に妥協していく。
ゾロアスター教の成立は仏教やキリスト教よりはるかに古く、後続の宗教にさまざまな影響を与えたと言われている。だが、聖典『アベスター』が成立したのは、ゾロアスター教を国教としたサーサン朝(224年〜651年)の時代であり、明確な教義の整備は、仏教やキリスト教より数世紀遅れた。その『アベスター』も現存しているのは30パーセント以下である。
他の宗教と同じように、ゾロアスター教も成立以降さまざまな経緯による変質をくり返してきたようだ。それ故に実相をつかみにくい。
本書の終章のタイトルは「ヨーロッパにおけるゾロアスター幻想」である。この章がとても面白い。正確なゾロアスターを知らないギリシア語・ラテン語の古典作者たちが独自のソロアスター像を進化させ、それがヨーロッパの知識人に影響を与えたという話である。次のような記述もある。
「こうして、ヨーロッパの思想界に、「バビロニアの占星術の大家、プラトン主義哲学の祖、キリスト教の先駆者、マギの魔術の実践者」という、ザラスシュトア本人が聞けば間違いなく驚愕するであろう「ルネサンス的ゾロアスター像」が深く刻み込まれたのである。」、
そんな事情が、ニーチェの『ツァラトゥストラ』やナチスの奇矯なアーリア民族至上主義にもつながっていく。本書はナチス親衛隊の機関「アーリア民族遺産研究会」による
チベット探検[LINK]にまで言及していて、ちょっと驚いた。
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