マルコ・ポーロは体験談を盛っている
2025-07-10


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◎『東方見聞録』を再読したくなったので

 7年前に読んだ『東方見聞録』[LINK]を再読したくなった。再読の前に『東方見聞録』がどう評価されているかを確認しておこうと思い、次のリブレットを読んだ。

 『マルコ・ポーロ:『東方見聞録』を読み解く』(海老澤哲雄/世界史リブレット人/山川出版社)

 『東方見聞録』を再読したくなった理由は二つある。一つは、NHKで毎週土曜朝5時10分から再放送している『アニメーション紀行「マルコ・ポーロの冒険」』[LINK]の録画視聴を始めたからである。実写とアニメを絡めた1979年放映の不思議な番組である。もう一つの理由は、先日読んだ『クビライ・カアンの驚異の帝国』[LINK](宮紀子)が、モンゴル史研究の基本中の基本史料のひとつに『東方見聞録』(フランス語、イタリア語、ラテン語などのさまざまな版)を挙げていたからである。 7年前に読んだ内容の大半を忘れているので、どんなことを書いてあったか再確認したくなった。

◎マルコ・ポーロは実在したか

 マルコ・ポーロに関しては、モンゴル史の泰斗・杉山正明が『モンゴルが世界史を覆す』[LINK]のなかで次のように述べている。

 「歴史研究者とよばれる人でも、マルコ・ポーロの存在そのものを疑うむきは、まずいないといってよい。しかし、わたくしはそうは考えない。」

 『東方見聞録』にはクビライの周辺にいた者でしか知り得ない情報が盛り込まれているが、元史や集史などの史料にはマルコ・ポーロと見なせる人物が登場しない。杉山氏は、『東方見聞録』は複数の人物の体験・知見をベースにした集成と考えている。

 杉山氏のそんな見解を読んだことがあるので、他の研究者がマルコ・ポーロをどう見ているかを確認したくなり、このリブレットを繙いた。

◎マルコは実在。作為の記述も。

 本書の著者・海老澤哲雄氏は1936年生まれなので、杉山氏より16歳年長の研究者である。著者はマルコ・ポーロを実在の人物と見なしている。だが、マルコたちの旅がどのようなものであったか、中国でどのように暮らしていたかの記述がほとんどなく、個人的な体験への言及が少ないとも指摘している。

 『東方見聞録』はマルコが執筆した手記ではない。二十数年にわたる紀行を終えた後、マルコの口述を物語作家が筆記したものである。著者は「見聞したことを、マルコなりに取捨選択したもので、作為した記述も含まれ、額面どおりには受け止められないものもある」と述べている。

◎かなり話を盛っている

 マルコ一行が元の都に到着したとき、クビライから大歓迎を受けたとマルコは書いている。著者は、超大物でもないマルコ一行がそんな歓迎を受けたとは考えにくいと疑義を呈している。また、マルコがクビライの宮廷で重用されたとの話も疑わしく、使節の随員に加わった程度だろうとしている。

 クビライの宮廷には、君主に近侍する要因のケシクという組織があった。著者は、若いマルコはケシクの一員だったのではないかと推測している。

 マルコは、ローマ教皇からクビライに宛てた親書やクビライから教皇に宛てた親書などがマルコ一行に託されたと語っている。著者は、そのような親書の存在には否定的である。作り話の可能性が高い。

 数奇な体験をした人が、過去の二十数年を振り返ってその体験談を他人に語るとき、話を盛るのは有り勝ちだと思う。マルコの体験談にも「盛った部分」がかなりあるようだ。
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