話題の映画『国宝』を観て、原作本も読んだ
2025-06-29


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歌舞伎の世界を描いた話題の映画『国宝』(監督:李相日、原作:吉田修一、出演:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、渡辺謙、他)を観た。吉沢亮と横浜流星が演じる女形歌舞伎役者の姿が見事だと評判である。映画を観て、評判通りだと思った。

 主人公・喜久雄(吉沢亮)は長崎のヤクザの親分の息子である。抗争で父を殺され、上方歌舞伎の名門・花井半二郎に引き取られ、半次郎の息子・俊介(横浜流星)と共に歌舞伎役者として育てられる。二人は同い年だ。

 14歳の喜久雄が紆余曲折のすえ人間国宝にまで上り詰める約半世紀の物語である。2時間55分の映画を退屈することなく観た。上映時間は長いが、扱う時間も長い。少年があっという間に老人になっていく話なので、やや目まぐるしく、駆け足にも感じられる。

 この映画には二人の役者が歌舞伎を演じる場面が多い。吉沢亮と横浜流星は1年以上稽古したそうだ。私はこの10年ばかり、年に数回ほど歌舞伎を観てきた素人である。歌舞伎役者の良し悪しがわかるわけではないが、二人の女形には感心した。二人が演じる歌舞伎シーンになると、観客席の私もつい緊張して見入ってしまい、その出来栄えにホッとする。

 歌舞伎の舞台の裏側を描いているのもこの映画の魅力だ。楽屋や舞台裏の情景が興味深いし、せり上がりや花道を観客目線ではなく役者目線でとらえた映像も新鮮だ。歌舞伎座(と思しき劇場)の満員の観客席を舞台側から見た光景に感動した。

 印象に残る場面が多い映画だが、半世紀にわたる話なので、シノプシスを見せられただけという気分にもなる。

 多少の物足りなさを感じたので、映画館を出た後、本屋に寄って原作本を購入し、上下2巻を一気に読了した。

 『国宝(上)(下)』(吉田修一/朝日文庫)

 原作には映画ではわかりにくかった展開も書き込まれている。とは言え、半世紀にわたる歌舞伎役者の波乱に富んだ人生を描くには、上下2冊の分量でも、かなりの省略と飛躍が必要である。面白いが、やや駆け足の長編だった。

 小説のなかで印象に残る会話の多くが映画に反映されているのには感心した。映画は、小説が描く世界の魅力を十全に取り込んでいると思う。

 さて、映画と小説、どちらが面白いか。私には判断できない。一般的には原作の面白さを超えた映画は少ないと思うが『国宝』のケースは何とも言えない。映画には映画でしか感得できない味わいがあり、小説には小説でしか得られない面白さがある。映画と小説はジャンルの違う作品だという当然のことを再確認するしかない。
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