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数カ月前に
『中世シチリア王国』[LINK](高山博)という新書を再読したとき、ノルマンディのオートヴィル家の息子たちの話に惹かれた。北フランスの田舎の小領主の息子たちが南イタリアへ傭兵(あるいは盗賊)として赴き、一帯を支配する王にまで上りつめていく「イタリアン・ドリーム」物語である。彼らについてもう少し知りたいと思い、次の本を読んだ。
『ノルマン騎士の地中海興亡史』(山辺規子/白水Uブックス/白水社)
11世紀から12世紀にかけての南イタリアにおけるノルマン人の征服活動とシチリア王国成立を描いた歴史書である。とても面白い。目次は以下の通りだ。
プロローグ ノルマンディ
第1章 ノルマン人、南イタリアへ
第2章 ロベール・ギスカール登場
第3章 ノルマン人、シチリアへ
第4章 古い支配の終焉
第5章 世界の恐怖――ロベール・ギスカール
第6章 シチリア王国の成立
第7章 ノルマン朝シチリア王国の変遷
エピローグ 十字軍のノルマン人
全7章のうち、第2章から第5章までの4章、つまり本書の半分以上がロベール・ギスカールに関する話である。本書の主役と言えるだろう。勇敢で頭がいい魅力的な騎士だったらしい。著者は「一言でいえば「すごい奴」ということになる」と紹介している。
ギスカールとは「狡猾」という意味のあだ名である。そう呼ばれる面もあったのだろうが、本書を読む限りではかなり寛容な人物である。彼の生涯は支配権を確立していく過程での反乱への対処のくり返しだった。著者は「ロベール・ギスカールが反乱に対して寛容な態度を取り続けてきたために、反乱を起こすのも、毎度同じメンバーである」と書いている。
同輩や縁者たちの中から一人が突出していくなかで「昨日の友は今日の敵」「昨日の敵は今日の友」がくり返されるのは、どこの世界にもある話だろう。ロベール・ギスカールが対処する相手はイタリアの諸侯やノルマン人諸侯だけでない。ローマ教皇、神聖ローマ皇帝、ビザンツ皇帝も重要なプレイヤーであり、彼らとの流動的な絡みの展開が歴史を作っていく。
彼の二番目の妻シケルガイタ(サレルノ侯女)も興味深い。戦場に同行し、長槍を手に馬を駆って騎士たちを叱咤する凄い女性である。
このロベール・ギスカールは高校世界史には登場しない。本書に登場するノルマン騎士で、高校世界史で名が挙がるのは、ロベール・ギスカールの甥にあたるルッジェーロ2世だけだと思う。ルッジェーロ2世は初代シチリア王になる。知的好奇心旺盛な優れた政治家であり、ロベール・ギスカールとは別の魅力がある。この王がいたからパレルモは「
12世紀ルネサンス[LINK]」の地になった。
ルッジェーロ2世の孫が「世界の驚異」と呼ばれた神聖ローマ皇帝
フェデリコ2世[LINK]である。私はフェデリコ2世のファンであり、2カ月前、彼が建てた謎の城
カステル・デル・モンテ[LINK]を訪問した。フェデリコ2世から見るとルッジェーロ2世は母方の祖父になる(父方の祖父はフリードリヒ1世=バルバロッサ)。フェデリコ2世の時代にはシチリアのノルマン朝はすでになく、彼をノルマン騎士とは呼べないだろう。だが、本書を読んで、フェデリコ2世はルッジェーロ2世に似ていると思った。
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