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調布市文化会館で『仙川 安部公房生誕100年祭:調布に住んだ文豪』というイベントがあった。入場無料だ。往年の安部公房ファンで調布市在住の私としては行かないわけにはいかない。
午後2時から8時までの長丁場で、以下の内容である。
映画『砂の女』上演
映画『おとし穴』上演
生誕100年記念鼎談「俳優座、仙川と安部公房・真知夫妻」
登壇者:川口敦子(俳優座・俳優)、鳥羽耕史(早稲田大学教授)、山口三詠子(「アジィ」経営)
勅使河原宏監督の映画2本はいずれも観たことがあるが、この機会に大画面で観ようと思った。
カンヌ国際映画祭審査員特別賞受賞の映画『砂の女』(1964年公開)を観たのは、高校生の時だった。1965年頃だと思う。三島由紀夫の『憂国』と2本立だった。原作の小説を読んだのは映画を観た後だ。十年以上前にCATVでも観ている。
今回、久々に『砂の女』を観て、あたりまえでバカみたいだが岡田英次も岸田今日子も若いなあと感じた。当方が齢を重ねただけだ。砂の表現の迫力にもあらためて驚き、しばしば挿入される技巧的・芸術的な画面に感心した。この映画を観るのは久しぶりだが、数年前に舞台で
『砂女』[LINK]や
『砂の女』[LINK]を観ている。舞台にも映画にもそれぞれの魅力がある。最も原作小説に近いのはやはり映画だと思う。この映画はたしかに名作だと再認識した。
1962年公開の『おとし穴』は、かなり昔にCATVで観た。三井三池炭鉱争議を題材にしたプロパガンダ的映画で、死者が次々に幽霊となって登場するのがミソである。歴史的な意義は多少はあるかもしれないが、図式的にすぎてシラける映画だ。炭鉱住宅の雰囲気は印象深い。
映画上演後の鼎談は、安部公房が暮らした地元・仙川をアピールする楽しいトークだった。
『安部公房:消しゴムで書く[LINK]』を上梓し、いまや安部公房研究の第一人者の鳥羽耕史は聞き手である。
俳優座の川口敦子氏(1933年生まれ)は、『幽霊はここにいる』にセクシーなファッションモデル役で登場した女優で、仙川周辺在住である。安部真知と晩年まで親交があったそうだ。
山口三詠子氏は仙川のブティックの経営者で、安部真知との親交があり、仙川の安部公房邸でのパーティにも参加していたそうだ。
鼎談は桐朋学園や安部真知をめぐる思い出話が中心だった。2014年に取り壊された仙川の安部公房邸がしばしば話題にのぼり、会場の画面にその映像も投影された。
仙川の安部公房邸は、わが家から徒歩20分ぐらいの場所にあった。2011年(13年前だ)、私はふと思い立って安部公房邸を探索し、それらしい家を見つけて撮影した(掲示写真)。人の住んでいる気配はなかった。それから数年後、ふたたび安部公房邸の探索を試みたが、すでに別の住宅になっていた。
今回の鼎談で安部公房邸に話が及んだとき、司会の鳥羽氏が聴衆に対して「安部公房の家を見たことがある人は?」と尋ねた。かなりの人が挙手した。私も挙手した。今回のイベントは、安部公房が調布市仙川に在住していたことを再確認する場のようでもあった。それは意味あることだと思う。
鼎談の最後に女優の川口氏が司会の鳥羽氏の著書『安部公房:消しゴムで書く』について、「何故こんなに詳しいのと驚きました。俳優座のことも詳しく書いています」と称賛した。鳥羽氏は「ストーカー的な本で…」と照れていた。私も、あの本の詳しさに驚いた一人である。
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