ホームズの架空伝記は思った以上に大胆だった
2024-05-05


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先月、シャーロック・ホームスの全60編(初期の長編2冊と短編集1冊[LINK]、中期の短編集2冊と長編1冊[LINK]、後期の短編集2冊と長編1冊[LINK])を読み返した。その残像が頭にあるうちに次の架空伝記を読んだ。

 『シャーロック・ホームズ ガス燈に浮かぶその生涯』(ベアリング=グールド/小林司・東山あかね訳/講談社)

 本書を購入したのは45年前、私が29歳のとき(1979.2)だ。あの頃、『名探偵読本シャーロック・ホームズ』(小林司・東山あかね編)というムックを読んだのがきっかけで、中学生時代に読んだホームズへの思いが高揚し、ホームズ関連本を何冊か集中的に読んだ。だが、この伝記はパラパラと拾い読みしただけで、通読していない。ホームズ全編を読み返したうえで読むべきだと考えたのだ。で、半世紀近くの年月が経過してしまった。

 グールドは、全60の事件の発生時期を確定させたホームズ研究家である。上記のムックはグールド説に従った順番で60の物語を解説していた。1話1頁のこの解説はシャーロキアンならではの楽しいツッコミが面白かった。

 グールドはシャーロキアンだから、ホームズやワトソンを実在の人物として研究を進めている。ワトソンが残した記録にある年代にはつじつまがあわないものがあり、実在しない地名もある。何等かの事情で事実をズラして発表しているのだろうが、誤記の可能性もある。60編の正典を基にその背後にある事実を追究した成果が本書である。

 本書は私が想定した以上に大胆で強引な伝記だった。全60編では語られていない「驚きの事実」が次々に出てくる。そのいくつかを以下に紹介する。

 ・モリアティはホームズの家庭教師だった。

 ・ホームズはオックスフォードとケンブリッジ、両方の大学で学んだ。

 ・ホームズは25歳頃、大学時代の友人に誘われてシェイクスピア劇の俳優になり、8カ月ほどのアメリカ公演に参加している。

 ・ワトソンはホームズとの共同生活を始めた後、アメリカ在住の弟が病気になったので、ホームズから借金して渡米する。弟は回復するが、ホームズへの借金返済のためサンフランシスコで医院を開業し、結婚もする。その後、妻とともにイギリスに戻るが、妻は早世する。

 ・実は「切り裂きジャック事件」もホームズとワトソンが解決していた。犯人が警察関係者だったため公表されなかった。

 ・ホームズは失踪期間中にモンテネグロでアイリーン・アドラーと一時同棲していた。

 ・ホームズは失踪期間中にエレベスト登山を試み、雪男を探索した。

 ・ホームズは失踪期間中にチベットで仏教の影響を大きく受けた。

 ・ワトソンの2回目の結婚相手は『四つの署名』のメアリー・モースタンだが、彼女も早世する。その後、ワトソンは3回目の結婚をする。

 ・ホームズは第一次世界大戦も第二次世界大戦も経験し、1957年に103歳で亡くなった。長命の秘訣は養蜂にあった。

 信じがたい話も多いが、さまざまな研究成果に基づいた「事実」らしい。この架空伝記にはコナン・ドイルも登場する。ドイルはワトソンの友人で出版の仲介者という位置づけである。虚実混ざったもっともらしい注釈もかなり挿入されている。ホームズ物語全60編のつじつまを合わせて伝記を紡ぐ力業は楽しいだろうなあと想像した。

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