シャーロック・ホームズ全編読み返し第2弾
2024-04-21


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今月初めからシャーロック・ホームズ全9冊を3冊ずつに分けて読み返している。第1弾の初期3冊[LINK]に続いて次の3冊を読んだ。

 『シャーロック・ホームズの回想』(コナン・ドイル/日暮雅道訳/光文社文庫)
 『バスカヴィル家の犬』(コナン・ドイル/日暮雅道訳/光文社文庫)
 『シャーロック・ホームズの生還』(コナン・ドイル/日暮雅道訳/光文社文庫)

 『…回想』は短編12編、『バスカヴィル…』は長編、『…生還』は短編13編である。1892年から1904年までの約12年間に発表した作品を収録したこの3冊は、ホームズの波乱万丈の活躍を語る最も充実した作品群に思える。

 『…回想』末尾の『最後の事件』(1893年12月発表)でドイルはホームズを葬り、読者の復活要求にも応えない。『バスカヴィル…』はホームズ亡き後の1901年8月〜1902年4月の連載だが、設定は「最後の事件」以前の懐旧談だった。葬ったはずのホームズが甦るのは『…生還』冒頭の『空き家の冒険』(1903年10月発表)である。その後、ホームズの推理・冒険譚は再開される。

 『最後の事件』後に久々に発表したホームズ物『バスカヴィル…』は長編4つのなかで最も面白いと思う。ゴシックロマン風の怪奇雰囲気を反オカルトの合理主義でしっかり抑え込み、手強い犯人が意外な人物というミステリーの王道で解決している。

 ホームズの死と復活を扱った『最後の事件』と『空き家の冒険』は特別な作品だが、ヘンな話である。モリアーティにリアリティを感じられないのは、ドイルが強引にホームズを葬ろうとして登場させた人物だからだろう。パロディ物で指摘されるように、モリアーティは薬物中毒に陥ったホームズの妄想の産物と考えた方が合理的に思える。

 『…回想』『…生還』収録の25編の短編、どれも面白いが、その面白さの大半はホームズというキャラクターとワトソンの語り口にある。よく考えればヘンな話も多い。『踊る人形』では依頼者の殺害を阻止できない。『恐喝王ミルヴァートン(犯人は二人)』のホームズとワトソンはアクションに突き進む犯罪者だ。『アヴィ屋敷』でも二人は犯罪に加担している。でも、話の面白さに引き込まれてしまう。

  『アヴィ屋敷』冒頭でホームズはワトソンに次のような苦言を呈している。

 「科学的にでなくひたすら興味という面でものごとを見るきみの癖は、困りものだよ。本来なら学ぶべきところのある、古典的でさえあるはずの謎解きが、いくつもそれでだいなしになった。読者をはらはらさせはしても、薬にもならないセンセーショナルことにこまごまとこだわってばかりだ。繊細にして絶妙な仕事ぶりについて書くことをおろそかにしているんだな」

 「名探偵」をアクションスターのように描いてしまったドイルの言い訳に読める。

 意外だったのは『…生還』収録の末尾の短編『第二のしみ』(1904年12月発表。これは傑作)において、ホームズは引退して田舎での養蜂生活に移行していることだ。ホームズ引退は、もっと先の短編集だと思っていた。『…生還』は冒頭の『空き家の冒険』(1903年10月発表)でホームズ復活を謳いつつ、14カ月後には『第二のしみ』(1904年12月発表)で引退させているのだ。ドイルのホームズ退場への執念を感じた。
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