父を語る娘たちの物語は面白かった
2024-01-21


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女性の著名人たちが父をどのように語っているかを語った本を読んだ。

 『この父ありて:娘たちの歳月』(梯久美子/文藝春秋)

 日経新聞読書欄の連載記事をまとめたものだ。私は連載中に何篇かに目を通したかもしれないが、ほとんどスルーしていた。男性の私にとって、娘が語る父親像は何となく敬遠したくなる話題だった。本書はカミさんに薦められて仕方なく手にしたが、読み始めると面白く、短時間で読了した。月並みでアホな感想だが、人生いろいろ父娘もいろいろの感を深くした。

 本書が取り上げた9人の娘は以下の通りである。娘が語る父親には著名人もいれば無名の人もいる。家族模様も様々だ。

 娘・渡辺和子(修道女 1927-2016)――――――父・渡辺錠太郎
 娘・斎藤史(歌人 1909-2002)――――――――父・斎藤瀏
 娘・島尾ミホ(作家 1919-2007)―――――――父・大平文一郎
 娘・石垣りん(歌人 1920-2004)―――――――父・石垣仁
 娘・茨木のり子(詩人 1926-2006)――――――父・宮崎洪
 娘・田辺聖子(小説家 1928-2019)――――――父・田辺寛一
 娘・辺見じゅん(歌人・作家 1939-2011)―――父・角川源義
 娘・萩原葉子(小説家・随筆家 1920-2005)――父・萩原朔太郎
 娘・石牟礼道子(作家・詩人 1927-2018)―――父・白石亀太郎

 冒頭の2編は対になっている。渡辺和子の父・渡辺錠太郎は二・二六事件の際に和子の眼前で青年将校に射殺された教育総監である。斎藤史の父・斎藤瀏は歌人将軍と言われた軍人で、二・二六事件で叛乱軍を幇助したとして禁固刑に服している。被害者と加害者の娘二人はともに父を敬愛し、その思いは緊張感をはらんでいる。昭和史を色濃く反映した二つの家族の物語である。

 以下、7人の娘が描いた父親と家族の物語もそれぞれに面白い。娘が父を語る文章が面白いのは、敬愛と辛辣がないまぜになっていて、父親を描くことによって自身に父親像が反映されてくるからだろうと思う。

 先日読んだばかりの『隆明だもの』[LINK]も娘が辛辣に父親を描いていて面白かった。かなり以前に読んだ『安部公房伝』[LINK]も娘視点の伝記としての独特の面白さがあった。
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