『モンゴル帝国と長いその後』の射程は現代に及んでいる
2019-04-07


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杉山正明氏の『遊牧民から見た世界史』に続いて同氏の次の本を読んだ。

 『モンゴル帝国と長いその後』 (杉山正明/講談社学術文庫)

 本書は約10年前に講談社が刊行した『興亡の世界史』という叢書を文庫化したものである。モンゴル帝国興亡の概説書ではなく、モンゴル帝国の世界への影響と世界史における位置づけを述べた本だった。チンギス・カンやクビライには簡単に触れているだけで、モンゴルとその周辺を視座にアフロ・ユーラシアの歴史を語っている。

 巻末に本書の内容に対応した年表があり、それは「前2千年紀前半の古アッシリア時代」に始まり、「2001年のニューヨーク同時多発テロ、アメリカのアフガンへの軍事作戦開始」で終わっている。項目が多いのは13世紀から15世紀で、その時代が本書のメインではあるが、古代から現代まで射程に入っている。壮大である。

 杉山氏の本を読むのは3冊目で、著者の考えや語りに少し慣れてきた。従来の世界史像は西欧視点や中国視点によって歪められた点が多いという指摘は、歴史をトータルに把握するうえで心すべきことだと納得できる。

 本書によって、おぼろげながら『集史』という歴史書の概要を知ることができた。モンゴル帝国の立場からペルシア語で書かれた浩瀚な歴史書で、世界各国で170年を越えて研究されているが、いまだに十全な定本・定訳はないそうだ。杉山氏は次のように述べている。

 「ヘロドトス『歴史』や司馬遷『史記』などの先行する“大歴史書”にくらべ、少なくともスケールの点では誰が見ても、はるかにそれを上回る『集史』についての言及の薄さは、世界の歴史学の片寄りを端的に示すものだろう。」

 本書の終章のタイトルは「アフガニスタンからの眺望」で、「文明の十字路」とも呼ばれるアフガニスタンに集約された歴史と現状をふまえ、モンゴル後の世界史を概観している。アフガニスタンはバーミヤーン遺跡のある国で、1979年のソ連の侵攻以来、紛争が続いている。最近、たまたまある人から「外務省が渡航を禁止しているので、日本ではアフガニスタンの遺跡を研究する人がいなくなった」という話を聞いたばかりだったので、この終章を興味深く読んだ。

 モンゴル帝国の「長いその後」は現代にまで及んでいる。杉山氏は、次のように述べている。

 「ロシア・中国どちらも「帝国」的な大領域という巨大遺産とともに生きている。それも、長いスパンで見ればモンゴルの遺産なのかもしれない」
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