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大著『ヒトラー(上)(下)』(イアン・カーショー/石田勇治監修)読了の余韻があるうちに、おさらい気分で次の新書を一気読みした。
『ヒトラーとナチ・ドイツ』(石田勇治/講談社現代新書)
著者の石田勇治氏は1957年生まれのドイツ近現代史の研究者で、上記カーショーの翻訳版の監修者である。この新書は大著読了で疲れた頭のクールダウンになった。
本書はヒトラーの生涯とナチ・ドイツの歴史をコンパクトのまとめている。と言っても、早わかり解説本ではなく、史実の背景分析にウエイトが置かれている。
ヒトラー政権成立時に副首相に就任した元首相パーペンは「ヒトラーを雇い入れる」「用が済めば放り出せばよい」と考えていたが、その思惑は外れる。著者の石田氏は次のように記述している。
「この日(ヒトラー政権成立の1933年1月30日)から、ヒトラーが首相と大統領の地位と権限をあわせもつ絶対の「指導者」(総統)に就任する三四年八月二日までは、振り返ると実に恐ろしい一年半だ。あれよあれよというまに、さまざまなことが決まり、もはや民主主義国家に戻ることのできない不可逆地点を越えた。結果的にホロコーストへとつながる最初の一歩も、すでにこの時期に踏み出していた。」
時代が動くときには時間が極端に速く流れる。歴史にはそんな局面がしばしば現われる。よく知っておくべきことだと思う。
本書はユダヤ人迫害とホロコーストの背景と過程を丁寧に分析している。遺伝病患者や心身障害者への「安楽死殺害政策」とホロコーストの関連、ユダヤ人国外退去政策が絶滅政策に転換していった経緯が明解に分析されている。
最新の研究成果が反映されいるのも本書の特色だ。『わが闘争』はヒトラーの口述をヘスが筆記したとされていたが、ヒトラー本人がタイプライターで書いたらしい。また、ヒトラーが反ユダヤ思想を抱いたのはウィーンでの浮草暮らし時代ではなく第一次大戦後らしい。歴史の見方は更新されていくから面白い。
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