ギリシア神話は複雑だ
2018-07-02


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◎断片知識だけのギリシア神話

 先月(2018年6月)の日経新聞の「私の履歴書」は阿刀田高氏だった。そこで自著『ギリシア神話を知っていますか』に言及しているのが印象に残った。ギリシア・ローマの遺跡を巡るシチリア旅行から帰ったばかりで、ギリシア神話への関心が高まっていたからだ。

 「ギリシア神話を知っていますか」と正面から聞かれて「知っています」とは答えがたい。小学生の頃に『少年少女世界文学全集』収録の「ギリシア神話」を読んで以来、まとまったものは読んでいない。

 絵画や星座に関連してギリシア神話の断片的逸話には接することは多いし、ギリシア神話を素材にした芝居や映画を観た記憶もある。だが、あいまいな断片知識が頭の中に散らばっているだけで、その神話世界の全貌を体系的には把握できていない。

◎3つのギリシア神話本

 書店の文庫本コーナーに行くと『ギリシア神話を知っていますか』があった。奥付を見ると65刷とある。発行は1984年、ロングセラー本だ。読みやすそうなので早速購入した。

 この本が呼び水となって、ギリシア神話に関する次の3つの本を続けて読んだ。 

 @『ギリシア神話を知っていますか』(阿刀田高/新潮文庫)
 A『ギリシア・ローマ神話』(ブルフィンチ/野上弥生子訳/岩波文庫)
 B『ギリシア神話(上)(下)』(呉茂一/新潮文庫)

 この三点、いずれも文庫本だが1頁の文字数がすべて違う。もちろん厚さも違う。文字数概算でAは@の2.2倍、Bは@の3.8倍だ。つまり、コンパクトな本から長大なものへと読み進んだのだ。

 @を読むと、もう少し詳しく知りたくなりAを読み、Aでも物足りなくてBも読んだ。@の解説に「もっと詳しくギリシア神話をお読みになりたい向きは、呉茂一著『ギリシア神話』上下巻、もしくはブルフィンチ作野上弥生子訳『ギリシア・ローマ神話』などによられたら良いだろう」とあり、それに忠実に従ったとも言える。

 で、ギリシア神話の世界を体系的につかめたかと言えば「否」である。私はギリシアの神々が活躍するまとまった「説話集」のようなものを期待していたが、三点とも私の予感していたものとはビミョーにズレていた(面白くなかったわけではない)。

 そして、ギリシア神話の世界を体系的に把握するのは思った以上に難しいと知った。

◎さすがロングセラー

 阿刀田高氏の『ギリシア神話を知っていますか』は12編の読みやすいエッセイで、その中でギリシア神話の内容を要領よくユーモラスに紹介している。

 三点を読み終えた時点で本書をふたたびめくってみると、このコンパクトな本でギリシア神話の主要な話とギリシア神話全体の構造をきちんと紹介しているのに感心する。

 「もともと発生の異なる物語が融合されて出来たものだから首尾一貫しないところがあるのは当然のこと」「決定版とも言うべき一書が存在しているわけでない」との適切な解説もある。

 ギリシア神話を紹介しながら、現代視点のさまざまなエピソード(映画、演劇、シュリーマンなどなど)を盛り込んでいるのも興味深い。ロングセラーになるのもうなずける。

 個人的にはパゾリーニの映画『アポロンの地獄』『王女メディア』なども取り上げてほしかったと思う。本書のテイストにはやや重かったのか。

◎漱石の序文がユニークな19世紀の本

 岩波文庫の『ギリシア・ローマ神話』は19世紀の米国作家の著作を野上弥生子が翻訳したものだ。翻訳版の最初の刊行は1913年、野上弥生子は28歳、若い。彼女の最初の本だそうだ。

 本書には夏目漱石の序文がある。これがユニークだ。自分は無学者だから序文は無理との言い訳の手紙で、この手紙を序文に使ってかまわないと述べている。次のような叙述もある。


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