『歴史学ってなんだ?』は拾いモノの新書
2018-04-14


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◎私の素朴な疑問に応えてくれた本

 歴史関係の本を読みながら漠然と抱いていた疑問は、歴史書と歴史小説の境目はどこらにあるかということだ。そんな素朴な課題をわかりやすく解説している本に出会った。

 『歴史学ってなんだ?』(小田中直樹/PHP新書)

 コンパクトで読みやすく勉強になった。大学で社会経済史を教える著者が、歴史学の「れ」の字も知らない読者を想定して書いた歴史学の入門書である。

◎ある教授の苛立ち

 年を取ると歴史への興味が増大する。若い頃は同時代や近未来のアレコレへの関心が高く、煩雑膨大な年表の固まりのような歴史は敬遠気味だった。齢を重ねると、人々の現在の営みや行く末を考えるには人類が経験してきた過去の事跡を振り返ねばと思い至り、歴史関連の書籍に手が伸びる。

 学者の書いたものもいいが、司馬遼太郎や塩野七生の歴史小説が読みやすくて面白い。これらの歴史小説は、完全なフィクションというより、歴史の見方のひとつを提示した歴史エッセイとして楽しめる。歴史学者がそんな歴史小説をどう評価しているのかに興味がある。何となく折り合い悪いのではないかという気がする。

 また過日の宴席で私より少し若い歴史哲学の教授がいきまいていた言説も気がかりだった。彼は「歴史も小説も同じだと言う歴史学者がいる。そんなことなら何でもありになってしまう。とんでもない話だ。」と怒っていた。

◎わかった気になった

 本書は「史実はわかるか」「過去を知ることは社会の役にたつか」という問題意識をベースに、歴史学の動向と現状を解説したうえで、「歴史学は、やはり科学であり、社会の役に立つ」という著者の見解を述べている。

 結論は常識的だ。完全に説得されたとは言えないが、そこに至る歴史学の動向が興味深い。「大きな物語の終わり」「マルクス主義歴史学」「経済的基底還元論」「構造主義」「記号論」「史観」「社会史学」などの要領よい解説で、歴史学のかかえる課題がわかった気がする。司馬遼太郎や塩野七生の歴史小説に対する歴史学者の眼差しも推測でき、かの歴史哲学教授の苛立ちも了解できた。

 また、高校の歴史教科書が面白くない理由まで納得できた。拾いモノの新書だ。
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