『第三帝国の興亡』は面白い同時代ノンフィクション
2015-06-25


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あらためて『第三帝国の興亡』を読み進めながら、これは歴史書というよりは同時代ノンフィクションだと感じた。人々が自分自身の体験や新聞・ラジオなどの報道によって把握している同時代の出来事を、その後あきらかになった各種資料によって再構成したドキュメンタリーであり、「あの出来事の裏側には実はこんなことがあったのだ」という暴露的面白さがある。

 本書で扱っている出来事とは「ナチス・ドイツの興隆と滅亡」であり、言い換えれば「第二次世界大戦」である。それが20世紀最大の出来事なのは間違いない。この超弩級の出来事を歴史書ではなくノンフィクションにまとめられる境遇にいたシャイラーは幸運な人だ。

 本書を歴史書でなくノンフィクションと感じるのは、扱っている時代の短さと近さによる。

 第三帝国の歴史を1933年(ナチス政権誕生)から1945年(ドイツ降伏)までとすれば、それは12年間である。ローマ帝国の千年に比ぶるべくもないが、その大帝国を継承したつもりの神聖ローマ帝国(第一帝国)はまがりなりにも850年ぐらい続いたし、ビスマルクが統一したドイツ帝国(第二帝国)も47年ほど持続した。それに比べて12年はあまりに短い。

 12年という時間は一人の人間が容易に記憶できる長さだ。人生を60年以上やっているとつくづく感じるが、12年なんてアッという間である。第三帝国を記憶している人々にとっては、それを「歴史」として把握するのは難しく、様々な事件の集成としてしか捉えることができないように思える。

 『第三帝国の興亡』は、第三帝国滅亡から15年後に出版されているので、15年前までの出来事を書いた本である。この15年という時間も過去を歴史として捉えるには短すぎるように思える。しかし、記憶を検証するには適当な時間だ。

 本書が興味深いノンフィクションになっているのは、現場を踏んだ同時代人シャイラーの目撃談や感想が随所に盛り込まれているからだ。しかし、シャイラー自身が「まえがき」で述べているように、ベルリン駐在という個人的体験が本書執筆の動機ではない。ナチス・ドイツ崩壊後、政府機密文書や高官の日記など広範で膨大な文書が押収され、異例の早さで「宝の山」が目の前にあらわれたのが本書執筆の最大の動機だそうだ。

 また、第三帝国の中枢にいて生き残った人々もその時代には多くいて、インタビューも可能であり、陸軍参謀総長だったハルダー将軍などはシャイラーの執筆に全面的に協力している。

 自分が三十代に目撃・体験したた歴史の動きを、後に入手した膨大な資料で検証し再構築する作業は、迷路を探検しながら謎解きをしていくような心ときめく仕事だっただろうと想像できる。うらやましい限りだ。

 本書が同時代ノンフィクションであるということは、親切な歴史解説の本ではないということでもある。同時代人の常識を前提にした記述も多い。本書をナチス・ドイツに関する入門書と位置づけることもできるが、後世の若い読者のためには補足解説があった方がいいと感じた。

◎ヒトラーは一枚上手の役者

 さまざまな出来事が書かれている『第三帝国の興亡』のメインストーリーは「国防軍 vs ヒトラー」の攻防の物語である。レーム事件(1934年)からロンメル将軍の自決(1944年)までの10年間、国防軍の将軍たちとヒトラーの関係は良好だったわけではない。本書によって、かなり早い時期(ミュンヘン協定以前)から軍人を中心にした反ヒトラーの策動(ヒトラーの逮捕または暗殺によるクーデター)があったことを知った。


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